集合上の二項関係
集合上の二項関係とは、ある集合とその集合自身との間に定義された二項関係のことです。
例
集合上の二項関係は、2つの台集合が同じである特別な種類の二項関係です。つまり、集合上の二項関係とは、R ⊆ M × M を満たす関係 R のことです。
「より大きい」という関係は集合上の二項関係です。両側で数を扱うからです。つまり、> ⊆ ℝ × ℝ が成り立ちます。「父と子どもの人数」という関係は、集合上の二項関係ではありません。父はすべての人の集合から選び、子どもの人数は数の集合から選ぶからです。
性質
集合 M 上の二項関係 R は、いくつかのおもしろい性質をもつことがあります。関係 R は、次の条件を満たすときにそれぞれ次のようによばれます。
- 反射的:すべての a ∈ M について (a, a) ∈ R が成り立つとき。
- 対称的:すべての a, b ∈ M について、(a, b) ∈ R ならば (b, a) ∈ R も成り立つとき。
- 反対称的:すべての a, b ∈ M について、(a, b) ∈ R かつ (b, a) ∈ R ならば a = b が成り立つとき。
- 推移的:すべての a, b, c ∈ M について、(a, b) ∈ R かつ (b, c) ∈ R ならば (a, c) も R に属するとき。
これらの条件をそれぞれ反射律、対称律、反対称律、推移律といいます。例えば「反射的である」ことを「反射律を満たす」ともいいます。
反射律の例
反射律は、どの要素も自分自身と関係にあることを意味します。典型的な例は等号です。自然数の集合上で等号を定義すると、どの要素 a についても a = a が成り立ちます。ほかの例として「割り切る」という関係があげられます。ここでも、a は自分自身を割り切るので、対 (a, a) は「割り切る」という関係にあります(7は7を割り切ります)。
一方、「より小さい」という関係は反射的ではありません。a < a は成り立たないからです。7が7より小さいことはありえません。同じように、「子の父である」という関係もそうです。だれも自分自身の父にはなれません。このような関係は反射的ではありません。
大切なのは、反射律がすべての要素について成り立たなければならないことです。成り立つ要素がいくつか見つかるだけでは足りません。例えば「〜を好きである」という関係を考えます。だれかほかの人、例えば電車の車掌さんを好きになることもあれば、自分自身を好きなこともあります。自分自身を好きな人はきっといるでしょう。しかし、自分自身を好きではない人も同じようにいるはずです。したがって、この関係は反射的ではありません。反射的であるためには、すべての人が自分自身を好きでなければならないからです。
対称律の例
対称的な関係では、ある対が関係にあれば、それを逆にした対も関係にあります。例えば「きょうだいである」という関係です。翔太がさくらのきょうだいなら、さくらも翔太のきょうだいです。数の関係では「反数である(符号を変えた数である)」という関係が考えられます。例えば、2 と −2、−7 と 7 のような組です。これは、足すと0になる2つの数です。この関係は対称的です。順序がまったく関係ないからです。(2, −2) でも (−2, 2) でも、たがいに反数で、足すと0になります。
対称的でない関係の例は、(実数上の)「より小さい」という関係です。この関係には、逆にした対が関係にある要素が一つもありません。a < b と b < a が同時に成り立つことは決してないからです。5 < 15 ならば、15 < 5 は成り立ちません。「息子の父である」という関係も対称的ではありません。ある人が息子の父であるなら、その息子が自分の父の父になることはできません。
この性質も、すべての場合に成り立たなければなりません。(すべての人の集合上の)「〜を好きである」という関係が対称的であるためには、私がある有名な女優を好きなら、その女優も私を好きでなければなりません。ところが、女優は私のことを知りもしないので、私を好きだとはいえません。残念なことです。そして、この関係は対称的ではありません。これもまた残念です。
反対称律の例
反対称的な関係の典型的な例は「以下」です。反対称律は、要素 (a, b) と (b, a) がどちらも関係にあるなら、それは a = b、つまり2つが等しいときに限る、ということを表しています。「以下」という関係はこれを満たします。
反対称的でない関係の例として、かなで書いたときの文字数が同じ単語の対、例えば (みかん, かもめ) があげられます。この関係は反対称的ではありません。関係にある単語の対で、それを逆にした対も関係にあり、しかも2つの単語が異なるものが見つかるからです。先ほどの要素 (みかん, かもめ) と、それを逆にした (かもめ, みかん) がその例です。どちらも明らかにこの関係にありますが、みかん ≠ かもめ なので、この関係は反対称的ではありません。
推移律の例
「より小さい」という関係は推移的です。推移律は、3 < 4 かつ 4 < 5 ならば、3 < 5 も必ず成り立つ、ということを表しています。多くの関係にとって、これはかなり自然な性質です。単語の文字数が同じという例でも同じです。(かもめ, みかん) が関係にあり、(みかん, つくえ) も関係にあるなら、単語の対 (かもめ, つくえ) も関係にあります。
「息子の父である」という関係は推移的ではありません。健一が翔太の父で、翔太が大輝の父だとしても、健一は大輝の父ではなく、祖父です。同じように、「〜を好きである」という関係も推移的ではありません。私がある女優を好きで、その女優が自分の夫を好きだとしても、私もその夫を好きだということにはなりません。
推移律は、ふつうのさいころでも問題になります。さいころ A を振ったときに、さいころ B より大きい目が出やすい(大きい目が出る確率が高い)とき、さいころ A はさいころ B より強い、という関係を考えます。この関係は推移的でしょうか。その答えは記事「非推移的なさいころ」にあります。
同値関係と順序関係
特別な種類の二項関係には、名前がついているものもあります。
- 同値関係とは、反射的、対称的、推移的な関係です。
- 順序関係とは、反射的、反対称的、推移的な関係です。