行列の階数(ランク)
行列の階数(ランク)とは、行列の1次独立な行または列の個数を表す数です。
定義
行列の階数とは、行列の中で1次独立な行(または列)の最大の個数です。零行列の階数は0で、それ以外の行列の階数は少なくとも1です。m × n 型の行列の階数は、最大でも min(m, n) です。つまり、行列の行の数が列の数より少なければ、階数は行の数以下になります。列についても同様です。
行列の階数は、ふつう英語の「rank」を使って表します。rank(A) = x のように書きます。
階数の求め方
では、行列の階数の求め方を説明します。それほど難しくありません。どの行が1次独立かがはっきりわかる形に、行列を変形すればよいのです。ふつうは行列を階段形(対角線より下がすべて0)に変形します。そうすれば、行列の様子がひと目でわかります。さっそく例を見てみましょう。次の行列を考えます。
この行列の階数を求めます。ここで、一つ注意しておきたいことがあります。0でない数ばかりが並んだ二つの行は、理論上は1次従属である可能性があり、それを確かめるには計算が必要です。しかし、一方の行のある位置に0があり、もう一方の行の同じ位置には0がなければ、二つの行は1次従属ではないと断言できます。その0(ひいては行全体)に何をかけても、もう一方の行の同じ位置にある数にはならないからです。そのため、つねに行列を階段形に変形して、このような0をつくるようにします。
前の段落の内容は、次のように書けます。α1, α2 ≠ 0 のとき、
そこで、従属関係が簡単にわかるように、行列をこのような形に変形します。例を見てみましょう。
これは階段形の行列で、1次従属な行はありません。最初の二つの行で第3行を表すことはできません。係数 α が0でなければ、前のほうの位置に必ず0でない数が残ってしまうからです。
手順はふつう次のとおりです。まず、第1列を(第1行を除いて)0にします。次に、第2列、第3列、…と順に0をつくっていき、最後に階段形にします。0でない行の個数を数えれば、それが行列の階数です。次の変形は、行列の階数を変えずに使えます。
- 任意の二つの行を入れかえる。
- ある行に0でない任意の式をかける。
- ある行を別の行に加える。
- これらの変形はすべて列にも使える。
例題
先ほどの行列は次のように変形します。まず、成分 a11 と a21 の関係を見ます。二つは等しいので、a21 の位置を0にするには、第1行の −1 倍を加えればよいことがわかります。第2行に第1行の −1 倍を加えます(つまり、第2行から第1行を引きます)。
これで、ほしい位置に0ができました。次は a31 の位置を0にしなければなりません。ここも1なので、第1行を引くだけです。
これで第1列が0になったので、第2列に取りかかりましょう。a22 と a32 は符号が逆の数なので、二つの行を足すだけです。
零行が一つできました。これで変形は終わりで、階段形になりました。あとは0でない行の個数を数えれば、階数が求まります。階数は rank A = 2 です。この行列の階数は2でした。
例題2
もう少し大きい行列の階数を求めてみましょう。
行列の階数は1次独立な行の最大の個数なので、行は好きなように並べかえてかまいません。ここでは、先頭が1の行がいちばん上にあると計算しやすくなります。そこで、第1行と第2行を入れかえます。
あとは前の例題と同じように進めます。第1列を(もちろん第1行を除いて)すべて0にしなければならないので、第2行に第1行の −7 倍を、第3行に −4 倍を、最後の行に −2 倍を加えます。第1行はそのままです。
再び行を入れかえます。今度は2番目の位置に2がある最後の行を、第2行にもってきたいところです。第2行と第4行を入れかえます。
ところが、2の下には −17 と −19 があります。どちらも2で割り切れないので、少し扱いにくくなります。そこで、第3行と第4行を2倍します。
これで、第2列を0にする変形を進められます。第3行に第2行の17倍を、第4行に19倍を加えます。
次の変形には少し扱いにくい数になってしまいましたが、なんとかしましょう。第3行を −38 で割ります。
次に、第3行を 60 倍して第4行に加えます。
きれいな数ではありませんが、0ではない数が出てきました。したがって、この行列の階数は4で、1次従属な行を一つも含みません。
文字を含む行列の例題
行列 A の階数は、文字 q の値によってどう変わるでしょうか。
これは少し難しい問題です。文字 q が含まれているからです。q がどんな値のときに行列の階数が最大になるか(そもそも最大になるのか)、どんな値のときにそれより小さくなるかを調べなければなりません。進め方はいつもと同じですが、ところどころ具体的な数のかわりに文字 q のまま計算します。まず、文字 q を扱いやすい位置、具体的には右下の隅に移します。第2行と第3行を入れかえ、続いて第1列と最後の列を入れかえます。
これで、文字をあまり邪魔にならない位置に移せました。ただ、第1列には扱いにくい数が並んでいます。一方、ちょうど真ん中に1があるので、これを左上に移します。つまり、第1行と第2行を入れかえ、第1列と第2列を入れかえます。
これで扱いやすい行列になりました。第1行を −8 倍して第2行に加えます。
第1行を −5 倍して第3行に加えます。
これで第1列は思いどおりの形になりました。次に、第3行に第2行の −1 倍を加えます。
これで行列の変形は終わりです。第1行と第2行は確かに1次独立です。しかし、第3行は1次従属になる可能性があります。第3行が1次従属になるのは、行全体が0になるとき、つまり式 q + 11 が0になるように文字 q を選んだときです。明らかに、q = −11 のとき第3行は零行になり、1次従属になります。
結論として、q = −11 のとき行列の階数は2、それ以外のときは3です。