✖

ハンロンの剃刀:悪意よりも愚かさ

ハンロンの剃刀は、他人に対して最悪のことを想定してはいけない、という考え方です。最もよく知られているのは、次の格言です。

愚かさで十分に説明できることに、悪意を見いだしてはならない。

私たち人間は、世の中をいちばん悪いほうへ見てしまい、他人には最悪のことしか期待しない傾向があります。レストランで店員に飲み物をかけられた?こちらがあいさつし忘れたから、わざとやったに違いない。上司が休暇を認めてくれなかった?四半期の成績が悪かった仕返しをしているだけに決まっている。探査機マーズ・クライメイト・オービターが火星の大気中で燃え尽きた?だれかがNASAの研究を妨害したに違いない!

こうした場面で悪意を見るのは簡単です。そうすれば、何が起きたのかをはっきり説明できるからです。そのレストランで5年も働いている店員が、客に飲み物をかけるほどまさか間抜けなはずはない。きっと何か悪意があるはずだ!実際には、隣のテーブルの子どもがこぼした水で足をすべらせ、うっかり飲み物をこぼしてしまった可能性のほうがずっと高いでしょう。年配の上司は、パソコンがあまり得意ではなく、通知の設定ができないのかもしれません。それなら、システムで申請した休暇のことを知りもしないわけです。では、探査機クライメイト・オービターは?この探査機は1999年に本当に火星の大気中で燃え尽きました。二つのチーム(NASAと、探査機を製造したロッキード・マーティン社)が、メートル法(メートル、キログラムなど)とヤード・ポンド法(フィート、ポンドなど)のどちらを使うかをきちんと合わせていなかったからです。結局、二つのチームがうっかり別々の単位を使い、それが原因で事故が起きたのです。

自分は悪人だろうか

自分自身に当てはめて考えてみましょう。だれかをわざと傷つけたこと、悪意をもっていたことは何回あったでしょうか。そして、単に何かを忘れていたことや、何かに気づかなかったことは何回あったでしょうか。サイコパスでもない限り、悪意よりも、不注意やうっかり、愚かさによる失敗のほうがはるかに多いはずです。

いろいろな陰謀論も、同じように見ることができます。政府も政治家も周りの人もみんな自分たちをだまそうとしていて、だれもが自分たちを支配しようとして動いている、と考えることもできます。「まさかXYZをするほど愚かなはずはない」と思ったときこそ、ハンロンの剃刀を思い出しましょう。本当にそれほど愚かだった、という可能性のほうがずっと高いのです。

世の中に悪は存在しないのか

もちろん、世の中に悪は存在します。ハンロンの剃刀が言っているのは、何か問題にぶつかったとき、真っ先に悪意を疑うべきではない、ということだけです。たいていは、だれかの悪意よりも、だれかの力不足や失敗のほうがもっともらしい説明です。ただ、本当にだれかの悪意が主な原因だということも、ときにはあります。世の中は完璧な場所ではないのです。

参考文献

章: オッカムの剃刀:単純な説明ほど正しいという考え方, ハンロンの剃刀:悪意よりも愚かさ