ベクトルの線形結合
線形結合とは、いくつかのベクトルから、足し算と実数倍だけを使って新しいベクトルをつくる方法のことです。
線形結合とは
ベクトル空間 V を考えます。ベクトル空間はベクトルの和について閉じているので、二つのベクトル
この二つの演算は組み合わせることができます。k, l ∈ ℝ をとると、式
このとき、ベクトル
例を見てみましょう。空間 ℝ2 から二つのベクトル (2, 3) と (0, 8) をとります。係数は k1 = 2, k2 = 5 とします。係数 k1, k2 によるこれらのベクトルの線形結合は、次のベクトルになります。
得られたベクトル (4, 46) は、空間 ℝ2 に属しています。別の係数を選べば、別のベクトルが得られます。例えば k1 = 0, k2 = −1 のときは次のようになります。
1次従属なベクトル
線形結合と深く関わるのが、1次従属(線形従属)なベクトルと1次独立(線形独立)なベクトルです。例で説明しましょう。ベクトル空間 ℝ2 と、この空間のベクトルの集合 Q を考えます。
ここで問題にしたいのは、この四つのベクトルのうちのどれかを、残りの三つのベクトルの線形結合で表せるかどうかです。ベクトルをよく見ると、ベクトル (3, 5) は最初の二つのベクトルをそのまま足したものに等しいことがわかります。
つまり、ベクトル (3, 5) はベクトル (1, 1) と (2, 4) の線形結合です。そこで、このベクトルを集合 Q から取り除いてみましょう。すると、次のような新しい集合 Q1 が得られます。
この中に、ほかのベクトルの線形結合になっているベクトルはまだあるでしょうか。あります。ベクトル (10, 18) は、k1 = 2, k2 = 4 とすると最初の二つのベクトルの線形結合になります。
このベクトルも取り除くと、次の集合が得られます。
もう一度考えてみましょう。一方のベクトルを、もう一方のベクトルの線形結合で表せるでしょうか。表せません。ベクトル (1, 1) を何倍しても、ベクトル (2, 4) にはならないからです。
こうして、どのベクトルもほかのベクトルの線形結合で表せないベクトルの集合が得られました。このような集合を1次独立なベクトルの集合といいます。あるベクトルをほかのベクトルの線形結合で表せるとき、そのベクトルは1次従属であるといいます。表せないとき、そのベクトルは1次独立であるといいます。
零ベクトル
1次従属かどうかを考えるとき、零ベクトル
2 · (1, 1) + 4 · (2, 4) = (10, 18) なので、ベクトル (10, 18) が1次従属であることはすでにわかっています。では、式 2 · (1, 1) + 4 · (2, 4) からベクトル (10, 18) を引くと、どうなるでしょうか。言いかえると、このベクトルの −1 倍を足すとどうなるでしょうか。式は次のようになります。
この式は、当然零ベクトルに等しくなります。
ここから、興味深い性質が導かれます。ベクトルの集合
ただし、係数 ai のうち少なくとも一つは0でない必要があります。すべての係数に0を代入すれば、この等式はいつでも成り立ちます。それを認めると、どんなベクトルの集合も1次従属になってしまい、明らかにおかしなことになります。上の等式が成り立つ理由は簡単です。例えば、ベクトル
この等式の両辺に
1次従属かどうかを調べる方法
ベクトル
を解いて、係数 ai を求めれば十分です。例えば空間 ℝ3 で、ベクトル (1, 2, 3), (2, 1, 7), (1, −4, 5) を考えます。これらが1次従属かどうかを調べたいので、次の方程式を解きます。
この方程式を、ベクトルの和と実数倍の定義にしたがって書き直します。a1 · (1, 2, 3) = (a1, 2a1, 3a1) などが成り立つので、次のようになります。
次に、足し算を成分ごとに書き出します。足し算は同じ位置の成分どうしで行います。つまり、1番目のベクトルの第1成分 a1、2番目のベクトルの第1成分 2a2、3番目のベクトルの第1成分 a3 を足し、その和が零ベクトルの第1成分、つまり0に等しくなければなりません。第2成分と第3成分についても同じです。こうして連立1次方程式が得られます。
この連立方程式は、行列の形で書けます。
この行列の各列には、実はもとのベクトルが並んでいることに注目しましょう。第1列にはもとのベクトル (1, 2, 3) が、第3列にはベクトル (1, −4, 5) が入っています。ですから、計算するときに毎回ここまでの書き換えをする必要はありません。1次従属かどうかを調べたいベクトルを列として並べ、最後に成分がすべて0の列を加えれば、この行列ができます。
この連立方程式はガウスの消去法で解けます。行列を階段形に変形しましょう。まず、第2行に第1行の −2 倍を加え、第3行に第1行の −3 倍を加えます。
次に、第2行に第3行の 3 倍を加えます。
ここで計算をやめてもかまいません。行が一つすべて0になったので、ベクトルは1次従属であることがわかります。ただ、連立方程式を最後まで解くこともできます。a3 = t とおきます。すると、行列の最後の行にあたる方程式
に a3 = t を代入して、次のようになります。
これらの値を1番目の方程式、つまり行列の第1行に代入します。
これで a1 = 3t, a2 = −2t, a3 = t が得られました。例えば t の値として t = 3 を代入すると、具体的な解の一つ a1 = 9, a2 = −6, a3 = 3 が得られます。これらの係数をもとの方程式
に代入すると、次のようになります。
左辺を計算してみましょう。
このように、例えば係数を a1 = 9, a2 = −6, a3 = 3 とすると、ベクトル (1, 2, 3), (2, 1, 7), (1, −4, 5) から零ベクトルが得られます。もし連立方程式の解が、すべての係数が0になる解ただ一つだけであれば、これらのベクトルは1次独立です。
章: ベクトル空間, ベクトル空間の例, 部分空間, ベクトルの線形結合, 線形包, ベクトル空間の基底, ベクトル空間の次元, 基底変換行列