✖

偽陽性のパラドックス

ある病気の検査を受けたら、結果は陽性でした。つまり、検査はその人が病気にかかっていると判定したのです。ところが実際には、本当に病気にかかっている確率のほうが、かかっていない確率よりずっと小さいこともあります。

ある学生の話

ある町で、豚インフルエンザが出はじめました。数学科の学生が病院に行き、このインフルエンザにかかっているかどうかの検査を受けます。この検査の正確さは 99.95% です。1週間後、学生は検査結果が陽性だったと知らされます。しばらくは落ちこみました。検査の正確さは 99.95% なのだから、まちがっている見込みはたったの 0.05% です。ところが、計算を始めてみると、学生は大喜びします。本当に豚インフルエンザにかかっている確率は、およそ 17% しかないとわかったのです。どうしてこうなるのでしょうか。

順を追って考えてみましょう。簡単にするために、この架空の検査は次のように働くとします。(実際には、正確さが100%の検査はまずありえませんが、ここでは簡単にするためにそう仮定します。)

  • 病気にかかっていれば、検査は 100% の確率で、病気にかかっていると判定します。
  • 病気にかかっていなければ、検査が正しく判定する確率は 99.95% です。つまり、病気にかかっていなくても、0.05% の確率で病気にかかっていると判定してしまいます。
  • 検査で病気にかかっていないと判定されたら、たしかにかかっていません。
  • 検査で病気にかかっていると判定されたら、それは正しいこともあれば、まちがいのこともあります。

しかし、知る必要があるのはこれだけではありません。調べる集団の中に、病気の人がどれだけいるかも知る必要があります。

病気の人が多い場合

では、いろいろな集団で検査がどうなるかを見てみましょう。この場合は、予想どおりの結果になります。集団 A では、10,000 人のうち 200 人が本当に豚インフルエンザにかかっている、つまり 2% の人が感染しているとします。100万人に検査をします。すると、20,000 人がインフルエンザにかかっていて、残りの人はかかっていません。

病気にかかっている人については検査はいつも正しいので、20,000 人を病気と判定します。残りは、病気にかかっていない 980,000 人です。この人たちについては、検査の正確さは 99.95%、つまり 0.05% はまちがえるので、病気でない 980,000 · 0.0005 = 490 人を病気と判定してしまいます。

合わせると、検査は 20,490 人を病気と判定します。ところが、このうち本当に病気なのは 20,000 人だけです。そのため、陽性と判定された人が本当に病気にかかっている確率は 20,000 / 20,490 = 0.9760858956、およそ 97.6% です。

病気の人が少ない場合

次は集団 B を考えます。ここでは、病気の人は 10,000 人に 1 人だけ、つまり人口の 0.01% が病気にかかっています。同じ検査を100万人に行います。

100万人のうち、病気の人は 100 人だけで、検査はこの人たちを正しく病気と判定します。残りの 999,900 人は健康です。検査はこの人たちの 0.05% を、まちがえて病気と判定します。つまり、999,900⋅0.0005≒500 人の健康な人を病気と判定してしまいます。それ以外の人は、正しく健康と判定されます。

合わせると、100 + 500 = 600 人を病気と判定します。ところが、このうち本当に病気なのは100人だけです。そのため、陽性と判定された人が本当に病気にかかっている確率は 100/600 = 1/6、およそ 17% しかありません。検査で病気と判定されても、病気にかかっていない見込みのほうがずっと大きいのです。

病気の人が1人だけの場合

検査で病気と判定されても、本当に病気である見込みは 17% ほどしかない、という結果に驚く人もいるでしょう。例を極端にすると、このことがもっとよくわかります。

100万人の集団で、病気の人はたった1人だけだとします。使う検査は、健康な人に対する正確さが 90% です。これはどういう意味でしょうか。検査は、健康な 999,999 人の 10% を病気と判定します。つまり、およそ10万人を病気と判定するのです。ところが、本当に病気なのは1人だけです。検査で病気と判定されても、本当に病気にかかっている見込みは 1/100000、つまりおよそ 0.001% しかありません。

章: モンティ・ホール問題, 誕生日のパラドックス, ベンフォードの法則, 確率のうそつきのパラドックス, ネクタイのパラドックス, シンプソンのパラドックス, 偽陽性のパラドックス, サンクトペテルブルクのパラドックス, 非推移的なさいころ