ネクタイのパラドックス
健太さんと翔太さんが、旅行先のドバイでばったり会いました。上等なワインを何本か空けたころ、2人はどちらのネクタイが高いかで賭けを始めました。
問題
前に述べたように、健太さんと翔太さんはワインを何本か空けたあと、どちらのネクタイが高いかで賭けを始めます。2人ともネクタイはクリスマスに妻からもらったもので、自分でも値段を知りません。賭けの内容は次のとおりです。妻に値段を聞き、安いネクタイをしていたほうが、相手のネクタイをもらいます。つまり、健太さんのネクタイが翔太さんのものより安ければ、健太さんが翔太さんのネクタイをもらいます。逆も同じです。最初の問題は、どちらかが有利かどうかです。どちらかにとって賭けに乗ったほうが得なのでしょうか。それとも、どちらにとっても見込みはまったく同じでしょうか。
まちがった解答
有利かもしれません。以下では、ネクタイの値段はちがうとします。値段が同じならだれも相手のネクタイをもらわないので、答えには影響しません。いっしょに考えてみましょう。健太さんのネクタイは X 円です。翔太さんのネクタイについては何もわからず、ほかに手がかりもないので、自分のネクタイのほうが安い確率は 50%、高い確率も 50% です。つまり、健太さんのネクタイのほうが高ければ、X 円を失います。しかし、安ければ、X 円より多くを得ます。どちらも確率は 50% です。X 円を失う見込みが 50%、X 円より多くを得る見込みが 50% です。
確率は同じなのに、失うかもしれない金額より多くの金額(高いネクタイ)を得られるかもしれないのです。これなら得です。健太さんにとってはとても都合がよく、賭けに乗ったほうがよさそうに見えます。失うかもしれないものより、得られるかもしれないもののほうが多いのですから。
ところが、もうお気づきのように、翔太さんもまったく同じように考えられます。翔太さんも、値段 Y の自分のネクタイを失う見込みが 50%、値段が Y より高いネクタイを得る見込みが 50% です。
同じ賭けで、2人とも有利になるはずはありません。どこかがまちがっているのです。
解答
まず、それぞれが何を得られるのかを書き出してみましょう。ネクタイの値段に、具体的な値を入れてみます。簡単にするために、ネクタイは 3000 円と 4000 円の2本だけだとします。すると、健太さんから見て、次の場合が考えられます。
- 健太さんのネクタイが 3000 円、翔太さんのネクタイが 4000 円 → 健太さんは 4000 円分を得る。
- 健太さんのネクタイが 4000 円、翔太さんのネクタイが 3000 円 → 健太さんは 4000 円分を失う。
(2人のネクタイが同じ値段の場合は除きましたが、除く必要はありませんでした。その場合はどちらも勝たないからです。)
このように、賭けているのはいつも同じ金額で、健太さんは 4000 円分を得るか、4000 円分を失うかのどちらかです。もちろん、これは具体的な値段には関係ありません。金額を 250 円と 350 円にしても、賭けているのはいつも 350 円分です。つまり、ほかに情報がなければ、だれにとっても賭けに乗るのが得(または損)ということはありません。
ネクタイが3本、たとえば 2000 円、3000 円、4000 円なら、場合は少し増えます。まず健太さんが得る場合、次に失う場合です。
- 健太さんのネクタイが 2000 円、翔太さんのネクタイが 3000 円 → 健太さんは 3000 円分を得る。
- 健太さんのネクタイが 2000 円、翔太さんのネクタイが 4000 円 → 健太さんは 4000 円分を得る。
- 健太さんのネクタイが 3000 円、翔太さんのネクタイが 4000 円 → 健太さんは 4000 円分を得る。
- 健太さんのネクタイが 3000 円、翔太さんのネクタイが 2000 円 → 健太さんは 3000 円分を失う。
- 健太さんのネクタイが 4000 円、翔太さんのネクタイが 2000 円 → 健太さんは 4000 円分を失う。
- 健太さんのネクタイが 4000 円、翔太さんのネクタイが 3000 円 → 健太さんは 4000 円分を失う。
どの場合も同様に確からしいです。このように、健太さんが得られる金額は、失うかもしれない金額とまったく同じです。ネクタイがもっと多くても同じような表ができ、健太さんが失うかもしれない金額は、得られる金額といつも同じになります。そして、どの場合も同様に確からしいので、どちらも不利にはなりません。
健太さんのおもなまちがいは、自分のネクタイの値段を決まった値として計算したことです。それはできません。2本のネクタイの例でわかるように、負けたときの自分のネクタイの値段と、勝ったときの自分のネクタイの値段がちがうからです。その次の3本のネクタイの例でも同じで、健太さんが勝ったときは、ネクタイの値段は集合 {2000, 3000} に含まれ、負けたときは集合 {3000, 4000} に含まれていました。それなのに、健太さんはずっと決まった金額で計算していたのです。
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