数列の極限
数列の極限とは、その数列が限りなく先で近づいていく数のことです。数列の極限は、解析学で重要な役割を果たす関数の極限への準備ともいえます。
極限の簡単な導入
数列の極限とは、ある数列がどこまでも近づいていく(場合によっては最後にその値になる)数のことです。いちばんわかりやすいのは図でしょう。式
図から、数列の項がどんどん0に近づいていくことがわかります。n が大きいほど an の値は小さくなり、0に近づきます。グラフが横軸にふれることはありません。方程式 1/n = 0 が成り立つことはないからです(n は自然数)。それでも、数列全体がどの数に近づくかを調べる価値はあります。問いはこうなります。n をどこまでも大きくしていくと、数列の値はどの数に近づくのでしょうか。n を無限大に近づけると、数列の項はどんな値になるのでしょうか。それを扱うのが極限です。極限は記号 lim を使って書きます。下に、n がどの値に近づくかを書きます。数列ではいつも無限大です。全体はたとえば次のように書きます。
「n を限りなく大きくしたときの、数列
数列 an = n2 の極限も無限大になることは、直感的にわかるでしょう。この数列は前の数列よりもさらに速く増加します。逆に、数列
数列の極限(収束)の定義
そろそろ、数列の極限をきちんと定義しましょう。
数列
次のような書き方をします。
定義はきれいですが、意味を説明していきましょう。そのためには数列の図が必要なので、たとえば次の数列を選びます。
そのグラフは次のとおりです。
グラフから、この数列は5に収束する、つまりこの数列の極限は5であることがよくわかります。この数列で極限の定義を説明する前に、グラフに少し色をつけておきます。
この数列の極限が5であることはわかっています。定義の最初の部分には ϵ>0、つまり0より大きいイプシロンが出てきます。ここでイプシロンは、極限のまわりの範囲(近傍)を表します。範囲は負にも0にもなれないので、0より大きくします。図では、この範囲を y 軸上の水平な緑の線で示しています。ここでは5が中心の点で、緑の線がその点のまわりの範囲です。範囲は上下両方向に広がっています。これから、この緑の水平線ではさまれた帯を使います。図では ϵ = 1 です。
目標は、下の横軸上で、横軸を2つに分ける数 n0 を見つけることです。ただし、n0 より右にある数列の項がすべて、この緑の帯の中に入っていなければなりません。n0 より左の項がどこにあるかは関係なく、定義を満たす最小の n0 を探す必要もありません。図では n0 = 12 です。
数列の項が緑の帯の中にあるとは、実際にはどういうことでしょうか。極限(ここでは5)からの距離が、最大でもイプシロンだということです。これはまさに定義の |an − a|<ϵ が表していることです。a は極限を表すので、この例では a = 5 です。15番目の項の値を計算してみましょう。
これを関係式 |an − a|<ϵ に代入します。
不等式は成り立っています。この点は定義を満たします。0.3125は、数列の15番目の項と数列の極限との距離を表しています。図では、この距離を短い紫の線分で示しています。n0 より大きいすべての番号についてこのように調べれば、この不等式がいつも成り立つことがわかります。したがって、数 a = 5 はこの数列の極限の定義を満たします。
ただし、定義には大事な点が1つあります。どんな ϵ>0 に対しても、その数 n0 が見つけられる、と書かれていることです。つまり、どんなに大きいイプシロンでも、そして何よりどんなに小さいイプシロンでもです。イプシロンをどれだけ小さく(ただし正の数に)しても、n0 が見つけられなければなりません。
では、イプシロンをもっと小さい値にしてみましょう。どうなるでしょうか。項が入らなければならない緑の帯が狭くなります。しかし、まったく問題ありません。n0 の値を大きくする、つまり右にずらせばよいのです。帯を狭くし、n0 をずらした様子を次の図に示します。
このずらし方は、極限のふるまいをよく表しています。極限に期待するのは、数列の項がだんだん極限に近づき、極限からの距離がどこまでも小さくなっていくことです(極限からの距離とは、先ほど計算した図の紫の線です)。距離がどこまでも小さくなり、項が極限に近づいていくなら、いつかは極限からの距離がイプシロンより小さくなるはずです。こうして n0 の値が見つかります。逆に、イプシロンを大きくすれば、n0 を小さく選べます。
最初に、数列は極限にどこまでも近づくが、決して極限には達しないと述べました。しかし実際には、数列が極限の値になることもあり、極限の値を無限回とることさえあります。たとえば定数の数列 an = 1 は、どの項も値が1で、極限も1です。
極限が存在しない例
次のグラフに合うように、数列の定義を変えてみましょう(ここでは具体的な式は重要ではありません)。
この数列は、10番目、20番目、30番目…の項を除いて、前の例と同じようにふるまいます(これらの項はいつも3.5で、増えも減りもしないとします)。これらの項はいわば調子はずれです。図には、イプシロン1とイプシロン2の2つの範囲をかき込みました。図のとおり、ϵ2(大きいほうのイプシロンの範囲)では、それ以降のすべての項が緑の帯に入るような n0 が見つかります。しかし、イプシロンを ϵ1 まで小さくすると、もうそのような n0 は見つかりません。10番目ごとの項がこの範囲の外に出てしまうからです。この数列は5を極限にもちません(ほかのどの値も極限にもちません)。
ほかの極限の例
極限をまったくもたない数列の例は an = sin n です。次の図に示します。
この数列はどの数にも収束せず、項は増えたり減ったりをくり返します。このような数列は発散する(振動する)といいます。
ここまでは、一方の側から極限に収束する数列を見てきました。しかし、数列は両側から極限に近づくこともあります。次の数列がその例です。
この数列も0に収束します。
無限大に発散する場合
ここまでは、数列がある実数に近づく場合、つまり極限値が有限の場合を考えてきました。では、数列 an = n はどうでしょうか。この数列はどの実数に近づくでしょうか。グラフを見てください。
明らかに、どの実数にも近づかず、限りなく大きくなっていきます。つまり無限大に向かって増加します。このような数列の極限は無限大で、正の無限大に発散するといいます。この定義は簡単です。数列が無限大に向かって増加するとはどういうことでしょうか。どんなに大きな実数 A を選んでも、その番号より後のすべての項が A より大きくなるような番号 n0 がいつも見つかる、ということです。要するに、値 A を選ぶと、数列のある部分から先の項はすべてこの A より大きくなります。数学的に書くと次のようになります。
最初の部分は「すべての A について」、つまり選びたいすべての値についてです。次の存在記号は、ある番号 n0 が存在しなければならないことを表します。n がこの n0 より大きければ、項 an の値が最初に選んだ値 A より大きくなる、という番号です。負の無限大に発散する場合も、同じように定義します。
極限の計算方法
数列の極限を求める基本的な方法は、すでにいくつか知っています。たとえば数列 an = n を少し変えた次のような数列は、
正の無限大に発散します。逆に、次のような数列は
0に収束します。ここで、数列の極限の計算に使う基本的な性質を紹介します。次が成り立つとします。
このとき、次の関係も成り立ちます。
1つ目の公式は、次の例で使えます。
では、次のような例はどうでしょうか。
ここで問題が起こります。分子の式も分母の式も、限りなく先では無限大に近づくからです。分子も分母も無限大になると、いわゆる不定形になります。つまり、次の式の値は決められません。
この不定形が出てこないように、式を変形するのが目標です。分母か分子から変数 n をなくせれば、無限大が1つだけの式にできるかもしれません。
まず、分子と分母の各項を変数 n で割ります。つまり、分母と分子に 1/n をかけます。
分母にはもう変数 n がないので、分母の式は限りなく先でも無限大に近づきません。前の公式を使えば、極限全体をいくつかの小さな極限に分け、それぞれの式の極限を別々に計算してから、足したり割ったりできます。
これで、すべての極限を計算できる形になりました。計算しましょう。
この数列の極限は1.5です。
もう1つ例を見てみましょう。
ここでは、前と同じ手順を使うこともできますし、筋道立てて考えてみることもできます。n2 は、関数 n が数列を引き下げるよりずっと速く数列を引き上げます。n2 のほうがはるかに強いので、式全体の極限は無限大になります。実際に計算してもみましょう。ここでも各項を n で割ります。
なぜ式に出てくる n2 ではなく n で割ったのか、少し補足しておきます。目標は、知ってのとおり変数をなくすことです。しかし、分母の値が0になってはいけません。そうなると、また不定形になってしまいます。分母に0が出てこないような式で割る必要があります。この場合は、分母の中で次数がいちばん高い式で割るということでした。
つまり、極限は、桁違いに速く増加するほうの関数で決まるといえます。ただし符号には注意しましょう。無限大を扱うときも、符号はそのまま保たなければなりません。