逆三角関数
基本的な三角関数を十分に使いこなすには、その逆関数も定義しておく必要があります。これを逆三角関数といい、アークサイン、アークコサイン、アークタンジェント、アークコタンジェントがあります。略して arcsin、arccos、arctan、arccot と書きます。
考えるきっかけ
例から始めましょう。角αの大きさを求めなさい。
三角形の2辺の長さ、b = 3 と a = 6 がわかっています。求めたいのは角αです。辺 a は斜辺で、辺 b は角αの対辺です。対辺を使うのはサインです。正確に言うと、角αのサインは、対辺の長さと斜辺の長さの比に等しくなります。そこで、式に代入してみます。
これで、角αのサインが2分の1であることがわかりました。問題は、この数から角をどうやって求めるかです。そのためには、サインの逆関数が必要です。サインは角を受け取って、2辺の比を返します。しかし、いま必要なのは、比を入れると角が出てくる関数です。
これを解決するのが逆三角関数です。逆三角関数をきちんと定義する前に、例題の答えを出しておきましょう。2分の1のアークサインは30°です。電卓で同じ計算をするときは、アークサインのキーが sin−1 と書かれていることがよくあります。
サインの逆関数?
まず、サインのグラフを見てみましょう。
ここで、関数の性質を少し復習します。関数 f に逆関数があるのは、その関数が1対1のときです。これはどういう意味でしょうか。定義域から異なる2つの値 x1 と x2 をとると、関数の値 f(x1) と f(x2) も必ず異なる、という意味です。しかも、どの2つを選んでもこれが成り立たなければなりません。1対1かどうかは、グラフから簡単に読みとれます。x 軸に平行な直線で、関数 f のグラフと2回以上交わるものを引けるなら、その関数は1対1ではありません。
サインでは、そのような直線が見つかるのは明らかです。たとえば x 軸そのものが、サインのグラフと2回以上、正確に言えば無限回交わります。したがって、サインは1対1ではなく、逆関数は存在しません。
定義域を制限したサインの逆関数
前の節で、サインには逆関数が存在しないことがわかりました。しかし、最初の節では、求めているとおりにはたらく arcsin という関数があることを見ました。どうしてそうなるのでしょうか。サインのうち1対1になる部分だけを取り出し、その制限した関数に対して逆関数を定義したのです。
サインを制限するには、定義域をせまくします。もとの定義域(実数全体)のどの部分集合を選べばよいでしょうか。選び方はいくつかありますが、いちばんよいのは次の区間です。
この区間を次の図に示します。
この区間ではサインは1対1なので、この定義域なら逆関数を定義できます。逆関数のグラフはもとの関数のグラフと直線 y = x に関して対称なので、定義域を制限した sin(x) の逆関数のグラフをかくことができます。図を見てみましょう。
青はもとのサインです。赤は、逆関数を求めたい部分です。緑は逆関数で、arcsin または単に asin と書きます。
arcsin の定義域と値域
この2つの関数を使うと、定義域と値域が入れかわるようすがよくわかります。次の図を見てみましょう。同じグラフを同じ色でかいてありますが、少し拡大して、線や点をいくつかかき加えています。
定義域を制限したサイン(赤い線)の定義域は、次の区間でした。
定義域とは、関数が定義されているすべての x のことです。1対1の関数にするために、この区間だけで定義したのでした。グラフでは、これらの x を x 軸上で探します。
今度は、arcsin(緑の線)の値域を見てみましょう。値域とは、関数が出力として返しうるすべての y のことなので、y 軸上で探します。arcsin の値域も、次の区間になります。
これは逆関数の一般的な性質なので、驚くことではありません。定義域を制限したサインの値域と arcsin の定義域についても、同じことが成り立ちます。サインの値域は、マイナス1から1までの区間です。サインが返すのはこの範囲の値だけで、どんな角のサインも1より大きくなったり、マイナス1より小さくなったりはしません。どんな角のサインも1より大きくならないので、逆関数が1より大きい値を入力として受け取れないのは当然です。したがって、arcsin の定義域も区間 [−1, 1] です。
アークコサイン
ここからは、コサインの逆関数について簡単に説明します。サインと同じ理由で、コサインも1対1ではないので、逆関数は存在しません。しかし、定義域の部分集合を選べば、1対1の関数にできます。
青はコサインのグラフ、赤はこの関数を定義域 [0, π] に制限した部分です。緑の線が関数 arccos(x) のグラフで、定義域を制限したコサインの逆関数です。
アークタンジェント
タンジェントのグラフは次のようになります。
グラフの形はこれまでの関数とちがいますが、やはり1対1ではありません。しかし、ここでもこの関数の定義域を制限して、1対1になる部分を選べます。次の開区間を選びます。
逆関数は次のような形になります。
アークコタンジェント
考え方は、これまでの節とまったく同じです。コタンジェントのグラフは次のとおりです。
定義域を制限したコタンジェントの定義域は、開区間 (0, π) です。
章: 三角比, 単位円, 逆三角関数, サイン、コサイン、タンジェント、コタンジェントの性質, 三角関数の公式, 三角関数のグラフ, 正弦定理と余弦定理