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加速度

自動車メーカーは、自社の車が停止状態から時速100 kmまで何秒で加速するかをよく自慢します。ふつうのファミリーカーなら、およそ10秒です。この数字は何を表しているのでしょうか。まず、時速100キロメートルをメートル毎秒に換算します。

100km/h=1003.6m/s≒27.8m/s

つまり車は10秒間で 27.8 m/s の速さを得ます。一様に速くなるとすれば、1秒ごとにその10分の1ずつ、2.78 m/s、四捨五入して 2.8 m/s ずつ速くなります。1秒後には 2.8 m/s、2秒後には 5.6 m/s、3秒後には 8.4 m/s、そして10秒後にはさきほどの 27.8 m/s で走ります。速度が1秒あたりどれだけ変わるかを表す量を加速度といいます。

上は一定の速さで走る車、下は一定の加速度で走り出す車。どちらも1秒ごとに印を残す

図には上下に2本の道路があります。どちらの車も1秒ごとにオレンジ色の印を残していきます。上の車はずっと同じペース、7 m/s で走るので、印の間隔は等しくなります。下の車は静止の状態から走り出し、1秒ごとに 2.8 m/s ずつ速くなります。最初の1秒間に進むのはわずか1.5 mほどですが、その後はどんどん速くなるので、1秒ごとに進む距離が大きくなります。そのため印の間隔はしだいに広がります。どれだけ広がるかは、このあと計算します。5秒後には2台とも同じ場所、スタートから 35 m の地点にいます。下の車は初めは遅れていましたが、最後には速く走るようになり、ゴールでぴったり上の車に追いつきました。

加速度の公式

公式だけを知りたいなら、加速度 a は、速度の変化 Δv を、その変化にかかった時間 Δt で割れば求められます。

a=ΔvΔt

ギリシャ文字の Δ は変化を表します。速度の変化は、終わりの速度と初めの速度の差です。初めの速度を v0、終わりの速度を v と表します。

Δv=v−v0

冒頭の車について、わかっている量を書き出します。

v0=0m/sv=100km/h≒27.8m/sΔt=10sa= ?

代入します。

a=v−v0Δt=27.8m/s−0m/s10s≒2.8m/s2

ファミリーカーの加速度はおよそ 2.8 m/s2 です。実際には、車はずっと同じように加速するわけではなく、ギアが上がると加速は弱くなります。そのため、求めた値は10秒間全体の平均の加速度です。瞬間の加速度は、瞬間の速さと同じ方法で求められます。加速度がその間にほとんど変わらないくらい短い時間 Δt で、速度の変化を測ればよいのです。微分を学んだ人なら、これが速度の時間による微分 a = v'(t) であることに気づくでしょう。

メートル毎秒毎秒の意味

加速度の単位は、速さの単位を時間の単位で割って得られます。ある数で割ることは、その逆数をかけることと同じです。

m/ss=ms⋅1s=ms⋅s=m/s2

分母に秒が2つあるのは奇妙に見えますが、それぞれ別の理由でそこにあります。1つ目は速さの秒(車が1秒に何メートル進むか)、2つ目はその速さがどれだけの時間で変わったかを表す秒です。ですから 2.8 m/s2 は「1秒ごとに 2.8 m/s ずつ速くなる」と読みましょう。

キロメートル毎時で考えたい人は、次のように言い表すこともできます。0から時速100 kmまで10秒で加速する車は、1秒ごとに 10 km/h ずつ速くなります。「1秒あたり 10 km/h」という結果も立派な加速度です。ただ、時間と秒がまざっているので、この単位はだれも使いません。

取りちがえに注意しましょう。加速度が大きいことは、速さが大きいことを意味しません。高速道路でクルーズコントロールを 120 km/h に設定して走る車の加速度は0です。速さが変わらないからです。青信号で走り出す車は、初めはほとんど0の速さですが、加速度はかなり大きくなります。加速度は、物体がどれだけ速く進んでいるかではなく、その速度がどれだけ速く変わっているかを表します。

印の間隔が広がる理由

図の下の車をもう一度見てみましょう。加速度は 2.8 m/s2 なので、最初の1秒間で0から 2.8 m/s まで速くなります。速さは一様に増えるので、最初の1秒間は平均してその半分の速さ 1.4 m/s で進み、1.4 m 進みます。次の1秒間には 2.8 m/s から 5.6 m/s まで速くなり、平均 4.2 m/s で 4.2 m 進みます。最初の1秒間の3倍です。3秒目の1秒間は平均 7 m/s で、上の車と同じ速さなので、同じ 7 m 進みます。

1秒ごとに平均の速さが 2.8 m/s ずつ大きくなるので、進む道のりも 2.8 m ずつ長くなります。印の間隔は順に 1.4 m、4.2 m、7 m、9.8 m、12.6 m で、比は 1:3:5:7:9、合計は 35 m です。上の車はずっと 7 m/s で走り、5秒間でやはり 35 m 進みます。平均の速さが、その1秒間の初めと終わりの速さのちょうど真ん中になるのは、速さが一様に増えるときだけです。その理由は、等加速度直線運動のところで説明します。

ブレーキ

車が 72 km/h、つまり 20 m/s で走っています。運転手がブレーキをかけると、4 s で車は止まります。終わりの速度は0、初めの速度は 20 m/s です。

a=v−v0Δt=0m/s−20m/s4s=−5m/s2

加速度は負になりました。車の速さは増えるどころか、1秒ごとに 5 m/s ずつ減っています。日常の言葉なら減速と言うところですが、物理では、車は加速度 −5 m/s2 で減速している、と言います。大きさ 5 m/s2 の減速と言っても同じ意味です。

では、マイナスの符号は本当は何を意味するのでしょうか。速度はベクトルで、加速度もベクトルです。加速度の矢印 a→ は、速度がどの向きに変わるかを示します。

右へ走る車。上は加速していて加速度は速度と同じ向き、下はブレーキをかけていて加速度は速度と逆向き

どちらの車も右へ走っているので、速度の赤い矢印 v→ は右を向いています。上の車は加速していて、加速度の緑の矢印 a→ は速度と同じ向きです。1秒ごとに速度に少しずつ加わり、速度の矢印が長くなります。下の車はブレーキをかけていて、加速度は逆向き、つまり後ろを向いています。1秒ごとに速度の矢印が短くなり、最後には何も残りません。直線上の運動なら、向きは符号で表せば十分です。ブレーキをかける車の例のように進行方向を正の向きにとると、正の加速度は速度と同じ向きで、物体は速くなります。負の加速度は速度と逆向きで、物体は遅くなります。

カーブでの加速度

車が環状交差点(ラウンドアバウト)を回っていて、スピードメーターはずっと 54 km/h を示しています。それでも、速度の矢印の向きが絶えず変わるので、ベクトルとしての速度は変化しています。そして速度が変わるところには加速度があります。ベクトルとしての加速度は、単位時間あたりの速度ベクトルの変化です。

a→=Δv→Δt=v→2−v→1Δt

2つのベクトルの差は、2本の矢印の始点を1点にそろえて求めます。差 v→2−v→1 は、v→1 の先端から v→2 の先端へ向かう矢印です。これを v→1 に加えると v→2 になるからです。環状交差点での速度の矢印は長さが同じでも向きがちがうので、その差は0ではありません。一定の速さでカーブを曲がる車にも、0でない加速度があります。それを生むのはアクセルでもブレーキでもなく、曲がることそのものです。

例題: 車が環状交差点の4分の1を、一定の速さ 54 km/h = 15 m/s で 3 s かけて回ります。初めは東向き、終わりは北向きに走っています。平均の加速度の大きさと向きを求めなさい。わかっている量を書き出します。

v1=15m/sv2=15m/sΔt=3sa= ?

矢印 v→1 は東、図では右を向き、矢印 v→2 は北、図では上を向いています。

左は環状交差点の4分の1で、車は初め右へ、その後上へ進む。右は2本の速度の矢印の始点を1点にそろえたものとその差で、差は斜めに環状交差点の中心を向く

右の図では2本の矢印の始点が1点にそろっていて、直角をなしています。緑の差 Δv→ は v→1 の先端から v→2 の先端へ向かうので、左へ 15 m/s、上へ 15 m/s 進みます。これは直角三角形の斜辺なので、大きさは三平方の定理で求められます。

Δv=152+152 m/s=450 m/s≒21.2m/s

差は斜め左上、つまり北西を向いています。これは左の図で、4分の1の円弧の中ほどから環状交差点の中心へ向かう灰色の矢印と同じ向きです。加速度は、速度の変化を時間で割れば求まります。数で割っても矢印が短くなるだけなので、加速度も環状交差点の中心を向きます。代入しましょう。

a=ΔvΔt≒21.2m/s3s≒7.1m/s2

車の平均の加速度は、環状交差点の中心向きにおよそ 7.1 m/s2 です。これは乾いた路面で急ブレーキをかけたときの約 7 m/s2 とほとんど同じですが、スピードメーターはその間ずっと 54 km/h を示しています。運転手がアクセルもブレーキも踏んでいないのに、カーブで体を踏ん張らなければならないのはこのためです。ここで求めたのは、4分の1周全体での平均の加速度です。カーブの各点での瞬間の加速度は、向心加速度のところで正確に計算します。

体に感じるG

車の加速度は自分の体で感じられます。スポーツカーが発進すると、体が座席に押しつけられます。その強さは重力加速度 g≒9.81m/s2 と比べて表します。手から放した石は、空気にじゃまされなければこの加速度で落ちていきます。スポーツカーは0から時速100 kmまで3秒で加速できるので、その加速度は次のとおりで、

a=27.8m/s3s≒9.3m/s2,

落ちる石とほとんど同じです。

G(重力加速度の何倍かで表した値)は、座席や床や背もたれが、静かに座っているときの何倍の強さで体を押すかを表します。今、いすに座っているなら、加速していなくてもGは 1g です。つまりGは加速度と同じものではありません。4g なら座席は4倍の強さで体を押し、体重が4倍になったように感じます。

アクセルをいっぱいに踏んだスポーツカーでは、車が落ちる石とほとんど同じくらい加速するので、背もたれが背中を押す力は、座席が下から押す力とほとんど同じ強さになります。ジェットコースターでは、谷やループのいちばん低い所で、3〜4g のGで座席に押しつけられます。そこではコースターが下向きの運動から上向きの運動へ急に向きを変えるので、上向きの大きな加速度が生じるのです。

谷を通過するジェットコースター。緑の矢印は座席が乗客を押す強さ、破線の矢印は比較のための静かに座っているときの強さ

下っていく途中では座席が押す力は座っているときより弱く、谷のいちばん低い所ではおよそ3倍の強さになります。

戦闘機のパイロットは急旋回で 9g まで耐えられますが、それは血液が頭から足へ下がるのを防ぐ特別なスーツを着ているときだけです。訓練を受けていない人なら、そのようなGでは数秒で気を失ってしまいます。おもしろいことに、自由落下では加速しているのに何も感じません。体を押すものが何もなく、Gは0で、体は無重量状態になります。そもそもなぜ加速度を座席に押される力として感じるのかは、力について学ぶ「運動の法則」のところで説明します。

いちばん簡単なのは、最初の図の下の車のように、加速度がまったく変わらない運動です。このとき速さは1秒ごとに同じだけ増え、任意の時刻の道のりも速さも簡単な公式で計算できます。そのような運動は、次の記事等加速度直線運動で扱います。