運動方程式(ニュートンの第2法則)
スーパーマーケットで、ショッピングカートが2台並んでいます。1台は空で質量が 10 kg、もう1台は水や缶詰を積んでいて 25 kg です。どちらも同じように 50 N の力で押します。空のカートは勢いよく飛び出し、いっぱいのカートはのろのろと動き出すだけです。どれだけちがうのかを正確に教えてくれるのがニュートンの運動の第2法則で、運動の法則ともよばれます。簡単にするため、車輪の摩擦は無視します。
どちらのカートも静止の状態から動き出し、オレンジの印は一定の時間ごとのカートの前端の位置を示しています。どちらも印の間隔が広がっていくので、どちらにも加速度があります。しかし、空のカートは同じ時間にいっぱいのカートの2.5倍の道のりを進みます。加速度が2.5倍だからです。力の矢印はどちらのカートでも同じ長さです。ちがいを生むのは荷物だけです。
運動の法則
アイザック・ニュートンは1687年に、この法則をおよそ次のように書きました。
運動の変化は加えられた力に比例し、力がはたらく直線の向きに起こる。
質量が入っていないように見えますが、そう見えるだけです。ニュートンのいう「運動」は質量と速度の積のことなので、質量はその中にかくれています。
今の言葉でいえば、物体にはたらく力が大きいほど加速度は大きく、物体の質量が大きいほど加速度は小さくなります。
力を2倍にすれば、加速度も2倍になります。質量を2倍にすれば、加速度は半分になります。この法則は、両辺に質量をかけた形で書かれることのほうが多くあります。
日本の教科書では、この式の左辺と右辺を入れかえた形で書き、運動方程式とよびます。
力も加速度もベクトルなので、完全な形は
一つ注意しましょう。
カートに戻って、加速度を計算しましょう。まず空のカートです。
次に、いっぱいのカートです。
なぜメートル毎秒毎秒になったのかは、少しあとで説明します。加速度 5 m/s2 は、空のカートの速さが1秒ごとに 5 m/s ずつ増えることを意味し、いっぱいのカートでは 2 m/s ずつしか増えません。いっぱいのカートは質量が2.5倍なので、加速度は2.5分の1です。空のカートを2倍の力 100 N で押せば、加速度は2倍の 10 m/s2 になります。
ただし、カートを長い時間押し続ける人はいません。0.5秒だけ押すと、空のカートは 5 m/s2 · 0.5 s = 2.5 m/s まで速くなりますが、いっぱいのカートは 2 m/s2 · 0.5 s = 1 m/s にしかなりません。
慣性の大きさを表す質量
物体は、力によって変えられないかぎり、自分の速度を保ち続けます。これを慣性といいます。運動の第2法則を使うと、慣性の大きさを数で表せます。質量が大きいほど、物体の速度は変わりにくくなります。質量は慣性の大きさを表す量なのです。
空のカートは指1本で動かせるのに、走っているいっぱいのカートを止めるのはひと苦労です。トラックが乗用車よりずっと強いエンジンをもっていながら、信号から発進するのが遅いのも同じ理由です。
大きい物体が質量も大きいとはかぎりません。ビーチボールはボウリングの球より大きいですが、ボウリングの球をけりたいとは思わないでしょう。ボウリングの球のほうがずっと質量が大きいので、同じ強さでけってもわずかしか動かず、足が止められてしまいます。
ものの重さを感じない場所でも、慣性はなくなりません。宇宙ステーションの宇宙飛行士は、100キログラムの箱を片手で持ち上げられます。箱もステーションも一緒に地球のまわりを落ち続けていて、箱は無重量状態で浮かんでいるからです。しかし、その箱をステーションの中で動かしたり止めたりしようとすると、地球上と同じだけ力を入れなければなりません。箱の質量はあいかわらず 100 kg で、慣性も変わらないのです。
ニュートンという単位の由来
力の単位はニュートン N = kg·m/s2 です。なぜこうなるのかは、運動の第2法則で説明できます。ニュートンはこの法則をもとに定義されているからです。1ニュートンは、質量 1 kg の物体に加速度 1 m/s2 を生じさせる力です。F = m · a に代入します。
ここから、カートの加速度の単位もわかります。ニュートンをキログラムで割ります。
キログラムが約分され、メートル毎秒毎秒が残ります。
1ニュートンはどれくらいの大きさでしょうか。小さなりんごを1個手に持ったときくらいです。完全になめらかな氷の上に、質量およそ 1 kg の1リットル入りの水のペットボトルを立て、ずっと同じ 1 N の力で引き続けたとします。ペットボトルはその間ずっと加速し続けます。1秒後には 1 m/s、2秒後には 2 m/s で進みます。一定の力は速さを一定に保つのではなく、速さを変え続けるのです。
車を発進させる力
質量 1,200 kg のファミリーカーが、0から 100 km/h まで10秒で加速するので、加速度はおよそ 2.8 m/s2 です。そのためには、車にどれだけの合力がはたらかなければならないでしょうか。
式はすでに求める量について解いた形なので、そのまま代入します。
単位も合っています。キログラムとメートル毎秒毎秒の積はニュートンです。車にはおよそ 3,360 N、つまり3キロニュートンを超える合力がはたらいていなければなりません。合力という言葉に注意してください。車の運動をさまたげる向きには空気抵抗やタイヤの転がり抵抗もはたらくので、道路はタイヤを通して車をもう少し強く押さなければなりません。
いくつもの力がはたらくとき
物体にはたいていいくつかの力がはたらいていて、そのときはいつも同じ手順で考えます。
- 物体にはたらく力を図にかき、正の向きを決める。
- 力をたし合わせて、合力を求める。
- 合力を質量で割って、加速度を求める。
かくのは、考えている物体にはたらく力だけです。車が道路を押す力は道路にはたらく力なので、車の加速度の計算には入りません。力と運動の問題はすべてこの手順で解き、このあとの記事で新しい種類の力が加わるだけです。
前の例の車が、今度は一般道を走っていて、運転手がアクセルを踏みこみます。道路はタイヤを通して車を前へ F1 = 3,000 N の力で押し、空気抵抗と転がり抵抗は車を F2 = 600 N の力で遅くします。
赤い矢印は駆動力、青い矢印は抵抗、緑の矢印は合力で、すべて同じ縮尺でかいてあります。鉛直方向には、車に下向きの重力と、道路が車を上へ押す同じ大きさの力もはたらいています。これらは打ち消し合うので、図にはかいていません。
正の向きを進行方向にとります。2つの力は反対向きなので、大きさを引き算します。
質量で割ります。
車の加速度は 2 m/s2 です。駆動力だけを質量で割ってしまうのはよくある誤りです。そうすると 2.5 m/s2 となって大きすぎます。その計算では空気抵抗が抜け落ちてしまうからです。
ほかの場面でも同じ手順が使えます。高速道路で車が一定の速さで走っていて、抵抗はおよそ 600 N、駆動力は抵抗と同じ大きさなので、合力は0で加速度も0です。運転手がアクセルから足を離すと駆動力がなくなり、正の向きと反対向きの抵抗だけが残ります(エンジンブレーキは無視します)。
加速度が負なので、車は遅くなります。
この手順は逆向き、つまり加速度から力を求めるのにも使えます。抵抗 600 N がはたらいていても加速度 2.8 m/s2 を得るには、どれだけの駆動力が必要でしょうか。合力は、上で計算したとおり F = m · a = 3,360 N でなければなりません。合力の式を駆動力について解きます。
代入します。
駆動力はほぼ4キロニュートンに達しなければなりません。抵抗を忘れると、実際の車は計算より遅くしか加速しないことになります。
重いものも軽いものも同じように落ちる理由
自由落下では、同じ場所ならどんな物体も、石でも鍵でも同じ加速度
1キログラムがどれだけの重さかは、ばねばかりでわかります。地球は1キログラムあたりおよそ 9.81 N の力で物体を引きます。そのため重力は質量に比例します。
ここでの g は1キログラムあたりの力 N/kg を表し、これは m/s2 と同じです。質量 0.5 kg のボールを地球はおよそ 4.9 N の力で引き、質量 5 kg のボウリングの球を10倍の力、およそ 49 N で引きます。しかしボウリングの球は、質量も10倍です。
力が10倍、質量も10倍で、加速度は同じです。一般に
質量には二つの役割があります。地球が物体をどれだけ強く引くかを決めることと、物体の速度がどれだけ変わりにくいかを決めることです。この二つの役割に同じ数が現れるのは当たり前のことではありません。測定によって確かめられていて、きわめて高い精度で成り立っています。そのおかげで、金づちも釘も同じように落ちるのです。
空気中では上向きの抵抗が加わり、合力は重力から抵抗を引いたものになります。石では抵抗は重力に比べて無視できるほど小さいですが、ほとんど重さのない羽根では、抵抗が重力をほとんど打ち消してしまいます。地球上で羽根がふわふわ舞い、石がまっすぐ落ちるのはこのためです。空気抵抗は物体の形と速さによって決まり、質量にはよりません。同じ大きさの鋼の球と発泡スチロールの球は、同じ速さなら同じ大きさの空気抵抗を受けます。しかし質量が大きいほど抵抗が加速度を減らす割合は小さいので、鋼の球ではほんのわずかしか減りませんが、発泡スチロールの球ははっきりと遅くなります。
背もたれが背中を押す理由
車が急発進すると、背もたれが背中を押すのを感じます。これが、車と同じ加速度を体に与える力で、今ではその大きさを計算できます。助手席の人の質量を 60 kg とします。加速度 2.8 m/s2 のファミリーカーでは、背もたれはこの人を次の力で押します。
加速度 9.3 m/s2 のスポーツカーでは、次のようになります。
比べてみると、座席が下から支える力は重力と等しく、
運動の第2法則は、力が物体に何をもたらすかを教えてくれます。残る問いは、力がどこから生じ、何にはたらくのかです。カートを押すと、カートが手を押し返すのを感じます。これを扱うのが運動の第3法則です。
力が対になってどうはたらくのかは、次の記事作用・反作用の法則(ニュートンの第3法則)で説明します。