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作用・反作用の法則(ニュートンの第3法則)

スケート選手の美咲さんが、氷の上でフェンスに向かって立ち、手のひらでフェンスを押して体を突き放しました。美咲さんは後ろ向きにすべり出し、フェンスから離れていきます。このとき、だれも美咲さんを押してはいません。押したのは美咲さん自身で、しかも押したのは自分ではなくフェンスです。ところが、物体はひとりでには動き出しません。何かが力を加えなければならないのです。では、美咲さんを押したのはだれでしょうか。フェンスです。

フェンスを押して離れる美咲さん。美咲さんはフェンスを力 F⃗_1 で押し、フェンスは美咲さんを力 F⃗_2 で押す

灰色の人物は、フェンスを押した瞬間の美咲さんです。美咲さんは手のひらで赤い力 F→1 でフェンスを押し、同じ瞬間にフェンスは青い力 F→2 で美咲さんの手のひらを押します。2本の矢印は長さが同じで、向きが反対です。氷の上のオレンジ色の印は、0.5秒ごとの美咲さんの位置を表しています。最初の間隔が短いのは、押している間、美咲さんがまだ加速しているからです。そのあとは慣性で一定の速さですべっていくので、間隔が等しくなります。簡単にするため、スケートの刃と氷の間の摩擦は無視します。

作用・反作用の法則

アイザック・ニュートンは、1687年に『プリンキピア』の中でこの法則を次のように書きました(ラテン語からの訳)。

すべての作用には、つねに等しい反作用がはたらく。すなわち、2つの物体が互いにおよぼし合う作用は、つねに大きさが等しく、向きが反対である。

今のことばで言いかえると、ある物体がほかの物体に力を加えると、その物体は最初の物体に、大きさが等しく向きが反対の力を加えます。

F→2=−F→1

ベクトルの前のマイナスは向きが反対であることを表し、大きさは等しく F2 = F1 です。一方の力を作用、もう一方を反作用といいますが、どちらをどちらとよんでも構いません。2つの力は同時に生じ、同時に消えます。どちらかが先ということはありません。力はいつも2つの物体の間の相互作用なので、力はいつも対になって現れます。相手のいない力が1つだけ存在することはありません。

作用と反作用の組には、次の3つの性質があります。

  • 2つの力の大きさは等しい
  • 向きは反対
  • それぞれが別の物体にはたらく

いちばん大切なのは3つ目の性質で、まちがいがいちばん多いのもここです。美咲さんはフェンスを押し、フェンスは美咲さんを押します。2つの力のうち美咲さんにはたらくのはフェンスの力だけなので、美咲さんの運動に影響するのはこの力だけです。

計算してみましょう。美咲さんの質量は 40 kg で、フェンスは美咲さんを 80 N の力で押します。運動方程式から加速度が求められます。

a=Fm=80N40kg=2m/s2

押している時間が0.5秒なら、美咲さんは 2 m/s2 · 0.5 s = 1 m/s の速さですべっていきます。

では、なぜフェンスは動き出さなかったのでしょうか。美咲さんも同じ 80 N の力でフェンスを押しています。しかしフェンスはスケートリンクにしっかり固定され、リンクは地球に固定されているので、力を受けるのは質量およそ 6 · 1024 kg の地球全体です。

a=80N6⋅1024kg≒1.3⋅10−23m/s2

このような加速度は、だれにも測れません。力は等しくても、はたらく物体の質量が大きくちがうので、その効果は等しくないのです。

走っている車のフロントガラスにハエがぶつかったときも同じです。車のほうがハエよりはるかに大きな力でぶつかったように思えます。しかし2つの力の大きさは等しく、ハエがガラスを押す力は、ガラスがハエを押す力と同じです。ただ、ハエの質量は1グラムにも満たないので、同じ力でもハエには非常に大きな加速度が生じ、ハエは助かりません。1トン以上ある車は、同じ力ではほんのわずかしか減速しないので、運転手は気づきもしません。

馬と荷車のパラドックス

馬が荷車を引いています。ところが作用・反作用の法則によると、荷車も同じ大きさの力で馬を後ろに引いています。2つの力は大きさが等しく向きが反対なので、打ち消し合って何も動かないはずです。それなのに、なぜ馬と荷車は動き出せるのでしょうか。

よくある答えは、馬が荷車を引く力のほうが、荷車が馬を引く力より強いというものです。しかし実際はそうではありません。2つの力は、動き出すときも、走っているときも、止まるときも、どの瞬間でも大きさが等しいのです。まちがいは「打ち消し合う」ということばにあります。足し合わせたり打ち消し合ったりできるのは、同じ物体にはたらく力だけです。馬の力は荷車にはたらき、荷車の力は馬にはたらきます。それぞれが別の物体にはたらいているので、打ち消し合いようがありません。

荷車にはたらく力:馬が引く力 F⃗_1 と抵抗 F⃗_4。馬にはたらく力:荷車が引く力 F⃗_2 と地面からの力 F⃗_3

荷車が動き出すかどうかを知りたいときは、荷車にはたらく力だけに注目します。馬は赤い力 F→1 で荷車を前に引き、転がり抵抗がオレンジ色の力 F→4 で荷車を減速させます。引く力が抵抗より大きければ、荷車は加速します。荷車が馬を引く青い力 F→2 はここには入りません。この力は馬にはたらく力です。

馬には水平方向に2つの力がはたらきます。荷車は馬を力 F→2 で後ろに引き、地面は馬を緑の力 F→3 で前に押します。馬はひづめで地面をふんばって地面を後ろに押し、作用・反作用の法則によって地面が馬を前に押すのです。地面が馬を押す力が、荷車が馬を後ろに引く力より大きければ、馬は動き出します。

数値で考えてみましょう。荷車の質量は 400 kg、馬の質量は 600 kg です。馬は荷車を 400 N の力で引き、抵抗は 200 N です。荷車にはたらく合力は 400 N − 200 N = 200 N で、荷車の加速度は次のとおりです。

a=200N400kg=0.5m/s2.

馬も同じ加速度で進まなければ、荷車が先に行ってしまうか、後ろに取り残されてしまいます。したがって、馬にはたらく合力は 600 kg · 0.5 m/s2 = 300 N でなければなりません。荷車は馬を 400 N の力で後ろに引いているので、地面は馬を 400 N + 300 N = 700 N の力で前に押す必要があります。

つまり、馬と荷車の全体を動かしているのは地面です。地面が馬を押し、馬が荷車を引きます。ひづめが引っかかるところのない凍った道では、馬は足をかくばかりで、荷車はびくともしないでしょう。

歩行、自動車、水泳

歩くときもまったく同じです。一歩ふみ出すとき、足の裏は地面を後ろに押し、地面が体を前に押します。体を前に進めるのは地面の力だけで、足だけではどこにも進めません。氷の上では足の裏が地面の上をすべってしまい、地面を後ろに押せないので、とても歩きにくくなります。このとき地球も体から同じ大きさの力を後ろ向きに受けていますが、質量が非常に大きいので動きません。跳び上がるときも同じです。足が地面を下に押し、地面が体を上に押します。地面が体を押す力が、地球が体を下に引く力より大きい間は、体は上向きに加速します。足が地面から離れると地面の力はなくなり、重力だけが残って体をもとに引きもどします。

自動車も同じようにして進みます。エンジンが車輪を回し、タイヤが道路を後ろに押します。作用・反作用の法則により、道路が自動車を前に押します。エンジンの推進力とよばれる力を実際に自動車に加えているのは道路で、エンジンは車輪を回しているだけです。凍った道でタイヤが空回りすると、エンジンをいっぱいにふかしても自動車がほとんど動き出せないのはこのためです。

泳ぐ人は水に対して同じことをしています。手と足で水を後ろにかき、水が体を前に押します。ボートのオールも水を後ろに押し、飛行機のプロペラは空気を後ろに押します。

ロケット

ロケットには、押し返す相手がないように見えます。宇宙には地面も水も空気もありません。しかしロケットは、押し返す相手を自分で運んでいるのです。エンジンは燃料を燃やし、できた高温のガスをノズルから後ろへ高速で噴き出します。ロケットがガスを後ろに押し、ガスがロケットを前に押します。

ロケットは後ろの空気を押して進むという誤解が広まっています。実際はそうではなく、まわりの空気はむしろじゃまになるので、ロケットエンジンは地上付近より真空中のほうが少しよく推力を出します。ふくらませて手を放した風船も同じしくみで飛びます。空気が風船から後ろに噴き出し、風船は前に飛んでいきます。消防士が手に持つ筒先でも同じことを感じます。筒先が水を前に噴き出すと、水は筒先を後ろに押すので、消防士はしっかりふんばらなければなりません。

机の上の本

机の上に質量 2 kg の辞書が置いてあります。地球は辞書を重力で下に引いています。

W=m⋅g=2kg⋅9.81m/s2≒19.6N.

しかし辞書は落ちないので、辞書にはもう1つ、上向きの力がはたらいているはずです。それは机の天板が辞書を下から押す力です。この力は面に垂直な向きにはたらくので、垂直抗力 N→ といいます。辞書は静止していて合力は0なので、垂直抗力は重力と同じ大きさで、N≒19.6N です。

辞書にはたらく力:重力 W⃗ と垂直抗力 N⃗

青い重力と緑の垂直抗力は、大きさが等しく向きが反対です。では、これは作用と反作用の組でしょうか。ちがいます。2つの力はどちらも同じ物体、つまり辞書にはたらいていますが、作用と反作用はいつも2つの別々の物体にはたらきます。重力と垂直抗力は、つり合っている2つの別の力です。大きさが等しいのは慣性の法則から導かれることで、作用・反作用の法則によるのではありません。

では、それぞれの反作用はどこにあるのでしょうか。2つの力にはそれぞれ反作用があります。

  • 机は垂直抗力 N→ で辞書を上に押し、辞書は力 N→′ で机を下に押す。
  • 地球は重力 W→ で辞書を下に引き、辞書は同じ大きさの力で地球を上に引く。

作用と反作用の組:机は辞書を力 N⃗ で押し、辞書は机を力 N⃗' で押す

どの力がどの物体にはたらくかがわかるように、図では辞書を少し浮かせてかいています。緑の垂直抗力は辞書に、赤い力 N→′ は机にはたらきます。

辞書を上から手のひらで 10 N の力で押すと、ちがいがよくわかります。重力は変わらず、地球が辞書を引く力はそれまでと同じです。しかし机は、重力だけでなく手のひらの力にも逆らって辞書を支えることになり、垂直抗力が大きくなります。

N=19.6N+10N=29.6N

反作用も同じだけ大きくなり、辞書も机を 29.6 N の力で押します。重力と垂直抗力が等しかったのは、ほかに辞書を押すものがなかったからにすぎません。一方、作用と反作用はいつでも大きさが等しいのです。

作用と反作用の組は、その力を表す文で見分けるのがいちばんです。「机が辞書を押す」と「辞書が机を押す」は組になっています。文の中の2つの物体を入れかえただけだからです。「地球が辞書を引く」と「机が辞書を押す」は組ではありません。どちらの文でも、力を受けるのは辞書だからです。

跳び上がるときから机の上の辞書まで、重力はずっと登場してきました。重力が重さとどうちがうのか、体重計は実際に何を表示しているのか、上に動き出すエレベーターの中ではなぜ体が重くなるのかは、次の記事重力と重さで説明します。