力と運動の例題
力をいちばんよく理解する方法は、力を使って計算してみることです。ここでは、力の合成からニュートンの運動の法則、運動量、摩擦を経て、カーブと慣性力まで、13の例題を用意しました。そのうち3問(すべり台、雪の上のブレーキ、列車の発車)では、力と運動を結びつけます。力から加速度を求め、加速度から速さや道のりを求めるのです。解き方はいつもの手順どおりです。与えられた量を書き出し、力の図をかき、正の向きを決め、文字のまま式を解き、単位をつけて数値を代入し、答えを文で書きます。図は例題1にしかないので、力の図は自分でかきましょう。どの例題も、まず自分で解いてみてください。
例題1:2台のトラクターと動けなくなったコンバイン
コンバインがぬかるみにはまって動けなくなりました。2台のトラクターが、それぞれロープで 30 kN の力で引っぱり出そうとしています。2本のロープのなす角は β = 60° で、コンバインは2本のロープの真ん中の軸上にあります。合力の大きさはどれだけでしょうか。
解答:
x 軸を2本のロープの間の軸に沿ってとり、引く向きを正とします。コンバインは軸上にあるので、それぞれのロープは軸からロープ間の角の半分、
合力は 60 kN ではなく、およそ 52 kN です。2台のトラクターが少しずつちがう向きに引いているので、引く力の一部がむだになります。ロープが開くほど、むだは大きくなります。ロープ間の角が β = 120° のときは α = 60° で、合力は 2 · 30,000 N · cos 60° = 30,000 N、まるでトラクター1台だけで引いているのと同じです。
例題2:モーターボート
乗っている人を含めて質量 300 kg のボートを、スクリューのはたらきで水が 900 N の力で前へ押しています。水の抵抗は 300 N です。ボートの加速度はどれだけでしょうか。
解答:
進む向きを正とします。抵抗はその反対向きなので、合力ではマイナスがつきます。あとは力を足し合わせて質量で割るだけです。
単位も合っています。ニュートン毎キログラムはメートル毎秒毎秒です。ボートの加速度は 2 m/s2 です。水の抵抗は速さとともに大きくなり、900 N に達すると合力は0になって、ボートは一定の速さで進むようになります。
例題3:大型トラックと乗用車
質量 10,000 kg の大型トラックが、質量 1,000 kg の乗用車に衝突します。相手により大きな力をおよぼすのはどちらでしょうか。衝突の力が 50,000 N のとき、それぞれの加速度はどれだけでしょうか。
解答: たいていの人はトラックだと答えます。しかし衝突の力は作用と反作用の組なので、大きさが等しく、向きが反対です。トラックが乗用車を押す力は 50,000 N で、乗用車がトラックを押す力も同じです。ちがうのは、その力が物体に何をもたらすかです。
トラックの進む向きを正とします。
トラックの加速度は −5 m/s2、つまり減速しますが、乗用車の加速度は 50 m/s2 で、重力加速度のおよそ5倍です。力は同じでも、乗用車に乗っている人のほうがひどい目にあうのはそのためです。
例題4:下りのエレベーターの中の体重計
質量 80 kg の健太さんが、エレベーターの中で体重計に乗っています。エレベーターは下りで、1階の手前で 1.5 m/s2 の減速でブレーキをかけます。体重計は何を示すでしょうか。
解答: 上向きを正とします。エレベーターは下向きに動きながら減速しているので、加速度は上向きで、a = 1.5 m/s2 です。
健太さんには下向きに重力、上向きに体重計からの垂直抗力がはたらきます。運動方程式より N − m · g = m · a なので、垂直抗力は上向きに動き出すエレベーターの場合と同じになります。
体重計は力を重力加速度で割った値を表示するので、
例題5:火星探査車
火星探査車パーサヴィアランスの質量は 1,025 kg です。地球上ではどれだけの重力がはたらき、重力加速度が 3.71 m/s2 の火星ではどれだけの重力がはたらくでしょうか。
解答:
重力は質量と重力加速度の積です。火星では
地球では、同じ計算を g = 9.81 m/s2 で行って
火星で探査車にはたらく重力はおよそ 3.8 kN で、地球上の 10 kN の3分の1を少し超える程度です。しかし質量はどこでも同じなので、同じ力に対する動き出しにくさも同じです。
例題6:テニスのサーブ
テニスの選手が、質量 57 g のボールでサーブをします。ボールはトスの最高点でほとんど静止しています。ラケットがボールにふれている時間は 5 ms で、ボールは速さ 50 m/s で飛んでいきます。ラケットがボールにおよぼす平均の力はどれだけでしょうか。
解答:
ボールが飛ぶ向きを正とします。力は、運動量の変化を力がはたらいた時間で割ったもの、つまり力積を衝突の時間で割ったものです。
これは、質量 58 kg の人がボールの上に立っているのと同じくらいの力ですが、それも1000分の5秒の間だけです。ラケットは平均 570 N の力でボールを押します。ふれている時間が2倍なら、同じ速さにするのに半分の力で足ります。
例題7:組み合ったアイスホッケーの選手
質量 90 kg のアイスホッケーの選手が速さ 6 m/s で進み、向かい側から速さ 4 m/s で来た質量 80 kg の相手と正面衝突します。衝突したあと、2人は組み合ったまま動きます。2人はどちらの向きに、どれだけの速さで動くでしょうか。
解答: 1人目の選手が進む向きを正とするので、相手の速度は負になります。
氷の上では摩擦が小さく、衝突は短い時間で終わるので、2人を外力のはたらかない物体系とみなします。運動量保存の法則により、衝突前の運動量は衝突後の運動量に等しくなります。
結果は正なので、2人は、質量も速さも大きいほうの選手が進んでいた向きに、およそ 1.3 m/s ですべっていきます。符号を忘れると、5.1 m/s というありえない答えになります。
例題8:体育館のベンチ
質量 25 kg の木のベンチが、木の床の上に置いてあります。静止摩擦係数は 0.5、動摩擦係数は 0.3 です。水平に 100 N の力で押すと、ベンチは動くでしょうか。また、130 N の力で押すと、ベンチの加速度はどれだけになるでしょうか。
解答:
水平な床の上では、垂直抗力は重力に等しく、N = m · g です。静止摩擦力の最大値、つまり最大摩擦力は次のとおりです。
100 N の力はこれより小さいので、ベンチは動かず、静止摩擦力は押す力と同じ 100 N になります。130 N の力ならベンチは動き出し、そのあとベンチを減速させるのは動摩擦力だけです。押す向きを正とします。
ベンチはおよそ 2.3 m/s2 の加速度で動き出します。100 Nでは、まったく動かせません。
例題9:すべり台
子どもが、長さ 4 m、傾きの角 30° のすべり台を、静止した状態からすべり下ります。ズボンとすべり台の間の動摩擦係数は 0.3 です。下に着くときの速さはどれだけでしょうか。
解答:
すべり台に沿って下向きを正とします。重力の斜面方向の成分は m · g · sin α で、摩擦力 μ' · m · g · cos α は運動と反対向きです。質量を約分すると、摩擦のある斜面での加速度 a = g · (sin α − μ' · cos α) が残ります。数値ではおよそ 2.36 m/s2 になります。
時間がわからないので、下での速さは時間を含まない式 v2 = 2 · a · s から求めます。この式に加速度を文字のまま代入します。
子どもはおよそ 4.3 m/s、時速にして 16 km/h 足らずで下に着きます。摩擦がなければ 6 m/s を超えます。
例題10:カーブを曲がる自転車
摩擦係数 0.7 の乾いたアスファルトの上で、半径 12 m の水平なカーブを自転車が曲がれる最大の速さはどれだけでしょうか。また、摩擦係数 0.5 のぬれた路面ではどうでしょうか。
解答:
自転車を円周上にとどめているのは、カーブの中心を向くタイヤの摩擦力だけです。この摩擦力が向心力をまかなえなければならないので、
これはおよそ 33 km/h です。ぬれた路面では、同じ計算で 7.7 m/s、28 km/h 足らずになります。質量は約分されたので、体重が重い人でも軽い人でも、曲がりやすさは変わりません。これより速いと、自転車はカーブの外へはみ出してしまいます。
例題11:ブレーキをかけたバンの中の道具箱
バンの木の床の上に、質量 30 kg の木の道具箱が置いてあり、静止摩擦係数は 0.5 です。運転手が 6 m/s2 の減速でブレーキをかけます。バンの中から見て考えましょう。道具箱は前へすべるでしょうか。
解答: バンはブレーキをかけているので、非慣性系です。その中では、道具箱にはさらに、バンの加速度と反対向き、つまり前向きの慣性力がはたらきます。前向きを正とします。
バンの加速度は後ろ向きなので負です。慣性力と最大摩擦力は次のとおりです。
慣性力は正になったので、前を向いています。摩擦力では道具箱を止めておけず、道具箱は前へすべります。道具箱が止まっていられるのは、減速が
例題12:雪の上のブレーキ
雪の積もった道路を車が速さ 45 km/h で走っていて、運転手がタイヤがロックするほど強くブレーキをかけます。雪の上でのタイヤの動摩擦係数は 0.3 です。制動距離はどれだけで、ブレーキをかけている時間はどれだけでしょうか。
解答:
進む向きを正とします。車を減速させるのは摩擦力だけで、
車は 26.5 m 進んで止まり、ブレーキは4秒以上かかります。摩擦係数 0.7 の乾いた路面なら、11.4 m で止まれます。式に質量が入っていないので、荷物を満載した車でも、少なくともこの単純化した見方では、同じように止まります。
例題13:列車の発車
質量 400 t の列車が駅を発車します。レールは機関車の車輪を通して列車を 200 kN の力で前へ押し、運動をさまたげる抵抗は 40 kN です。力が変わらないとすると、速さ 90 km/h に達するまでにかかる時間と進む道のりはどれだけでしょうか。
解答:
進む向きを正とします。まず力から加速度を求めます。運動方程式を使います。
次に、静止した状態からの等加速度直線運動の式と時間を含まない式を使います。
検算:平均の速さは 12.5 m/s で、62.5 s では同じく 781 m になります。列車にはおよそ1分の時間と、1 km足らずの距離が必要です。実際には抵抗が速さとともに大きくなるので、発車にはもう少し時間がかかります。
おわりに
これで運動と力の学習はおしまいです。そもそも物理量と単位とは何かから始め、速さと加速度を経て力とニュートンの運動の法則にたどり着き、最後に両方を結びつけました。力からは加速度の大きさがわかり、加速度からは物体がどこへどれだけの速さで動くかがわかります。この2つを組み合わせれば、運動と力に関する問題のほとんどが解けます。仕事とエネルギーは、またあとで学びます。