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不等式の同値変形

不等式を変形するときは同値変形を使います。同値変形とは、不等式の解を変えない変形のことです。同値変形の目的は、不等式をもっと簡単な形にして、そこから解を計算できるようにすることです。

不等式とは

2つの関数 f(x) と g(x) が与えられているとします。不等式とは、次のどれかの形をした式のことです。

f(x)<g(x),f(x)>g(x)f(x)≦g(x),f(x)≧g(x)

不等式の解は、不等式を満たすすべての x です。x はふつう実数の中から考えます。不等式の例として 6x<12 を考えましょう。このとき f(x) = 6x、g(x) = 12 です。6x が不等式の左辺、12 が右辺です。この不等式の解は、2より小さいすべての x、つまり x<2 です。区間で書くと (−∞, 2) です。

不等号の向きを変えて両辺を入れかえる

方程式では、左辺と右辺を気にせず入れかえることができました。不等式ではそうはいきません。たとえば不等式 x<5 があるとき、同時に 5 < x が成り立つことはありません。1つ目では x は5より小さく、2つ目では x は5より大きいからです。ただし、両辺を入れかえると同時に不等号の向きも変えれば、同値変形になります。

つまり、不等式 f(x) < g(x) は g(x) > f(x) と書くこともできます。両辺を入れかえ、同時に < の代わりに > を書きました。「以下」の場合も同じで、不等式 f(x)≦g(x) は g(x)≧f(x) に変形できます。

式を足す変形

不等式には、数や、不等式を考えている範囲で定義された関数を足すことができます。例として不等式 x>0 を考えます。この不等式には、たとえば3を足すことができ、不等式 x + 3>3 が得られます。これは自然なことです。

同じように、関数をまるごと足すこともできます。不等式 x > −3x + 7 があれば、両辺に 3x を足して次のようにできます。

x>−3x+7/+3xx+3x>−3x+3x+74x>7

もちろん、式を引くこともできます。つまり負の数を足すこともできます。

正の式をかける変形

不等式には、方程式のときのように気軽に式をかけることはできません。いつも正になる式をかけるなら問題ありません。しかし負の式をかけるときは、不等号の向きを変えなければなりません(次の節を参照)。もちろん方程式と同じく、0になる式をかけてはいけません!

いつも正になる式とは何でしょうか。いちばん簡単な例は正の数です。不等式 x>2 があるとき、正の数である10を両辺にかけても、不等式の解は変わりません。不等式 10x>20 が得られます。もちろん正の数で割ることもできるので、変形したこの不等式を5で割ると、不等式 2x>4 が得られます。

一方で、不等式に変数 x を気軽にかけることはできません。変数 x は一般に正の値も負の値もとりうるので、それは許されないのです。ただし、x がいつも正になる場合もあります。たとえば図形の問題では、変数 x が線分の長さを表すことがあります。長さは負になりません(最小でも0です)。そのため、x が線分の長さを表すとわかっていれば、不等式に変数 x をかけることができます。

いつも0以上になる式としては、2乗もあります。どんな数も2乗すれば正(または0)になります。たとえば次の不等式

1x2>2,

には、式 x2 をかけることができます。すると 1>2x2 が得られます。もちろん、x が0でないという条件のもとでです。いつも正になる関数はほかにもあります。たとえば三角関数のサインとコサインの値域は [−1, 1] で、いつも正とは限りません。しかし、これに2を足すと値域は [1, 3] になり、正の範囲に入ります。このような関数なら、不等式にかけることができます。次の不等式

x+3cos⁡(x)+3≦3x−5,

は、式 cos(x) + 3 がいつも正の関数なので、両辺にこの式をかけることができます。すると次の不等式が得られます。

x+3≦(3x−5)(cos⁡(x)+3).

いつも負になる式をかける変形

負の数や負の式の場合は、少し事情が複雑になります。例として 1<2 を見てみましょう。この不等式はもちろん成り立ちます。両辺にマイナス1をかけるとどうなるでしょうか。−1<−2 が得られます。この不等式は成り立つでしょうか。成り立ちません。マイナス2はマイナス1より小さいからです。明らかに、負の数をかけるのは不等式の同値変形ではありません。

ただし、負の数をかけると同時に不等号の向きを変えれば、同値変形になります。不等式 1<2 の両辺に −1 をかけ、同時に < の代わりに > を書けば、同値変形となり、不等式 −1>−2 が得られます。

負の数をかけるのは簡単ですが、式(関数)をかけるときは厄介です。なぜ不等式に変数 x をかけてはいけないのでしょうか。変数が正の値をとるなら不等号の向きは変わりませんが、負の値をとるなら向きを変えなければならないからです。x に何の制限もなければ、変数は正にも負にもなりうるので、一般には両方の場合が起こりえます。例を見てみましょう。

1x>1

この不等式に変数 x をかけるのは間違った解き方です。そうすると 1>x が得られ、解は1より小さいすべての x ということになります(もちろん x が0でないという条件つきです)。しかし、元の不等式の x に −1 を代入するとどうなるでしょうか。

1−1>1−1>1

これはもちろん正しくありません。だから、不等式に変数 x を気軽にかけることはできないのです。

ただし、前の節でいつも正になる式があったのと同じように、いつも負になる式もあります。いちばん簡単なのは、いつも正になる式の前にマイナスをつけることです。前の節で、関数 cos(x) + 3 はいつも正だと説明しました。この式全体の前にマイナスをつけると、いつも負になる関数 −(cos(x) + 3) が得られます。

不等式を自然数乗する変形と累乗根をとる変形

方程式と同じく、不等式を累乗する変形は一般には同値変形ではありません。次の不等式を見てみましょう。x>−2 です。これを2乗するとどうなるでしょうか。x2>4 が得られます。これは同値な不等式でしょうか。両方の不等式の x に0を代入するとどうなるか考えてみましょう。1つ目は 0>−2 で、正しい式です。2つ目は 0>4 で、正しくありません。つまり、同値変形にはなっていません。

不等式を自然数乗してよいのはどんなときでしょうか。両辺が0以上(正または0)のときです。それなら問題はありません。例を見てみましょう。

5>2/225>4

ほかの例として、絶対値があります。絶対値はいつも0以上の数になるので、次の不等式は安心して2乗できます。

|x|<3/2|x|2<9

累乗根も累乗とまったく同じようにふるまいます。両辺が0以上なら、不等式の両辺の自然数乗根をとることができます。したがって、先ほどの不等式は平方根をとって元の形に戻せます。

|x|2<9/|x|<3

不要な式を取り除く

f(x)>0 の形の不等式を解くことはよくあります。このとき関数 f が複雑で、一部の式を取り除けば簡単にできる場合があります。次の不等式を見てみましょう。2x>0 です。この不等式は、明らかに x>0 のときに成り立ちます。x が負なら 2x も負です。負の数に2をかけても負のままで、2をかけただけでは後ろの式の符号は変わりません。

不等式 5x>0、157x>0、π x>0 も解いてみましょう。どの場合も解は同じで、x>0 です。x の前の正の係数は、不等式の解を変えません。

形式的には、両辺をその係数で割って、係数を取り除きます。

2x>0/÷2x>0

正の係数(これを a とします)を取り除けるのは、それが左辺全体にかかっている場合だけです。注意しましょう。不等式 2x + 7>0 から2を取り除くことはできません。2が左辺全体にかかっていないからです。ただし、両辺を2で割ることはできて、不等式 x + 3.5>0 が得られます。

次の例も同じように考えます。

x2⋅(x−3)>0

複雑に見えるかもしれませんが、式 x2 はいつも0以上なので、後ろのかっこの符号を変えません。そのため、この式は不等式から取り除くことができます。両辺を x2 で割ると、次の不等式が得られます。

x−3>0

ただし、0で割ることはできないので、x2 ≠ 0 という条件をつける必要があります。x2 が0になるのは x が0のときだけで、x = 0 では不等式は成り立ちません。実際、(x = 0): 0(0 − 3)>0 となり、0>0 は正しくないからです。

これは特別な方法ではなく、前に説明した正の式をかける変形・割る変形をうまく使っただけです。

章: 方程式の同値変形, 不等式の同値変形